毎週末連載して頂いてます京都民報新聞のコラム「心地よいうつわ」
いよいよ、まる一年に差し掛かろうとしております。
春夏秋冬を巡り、「上燗や茶坊」(現在のところ店舗お休み)さんに
うつわにつろくする創作料理をご提供頂いて、此処まで続けてこられました。
ほんとうに有難うございます!
一回ごとに違ううつわのご紹介をするわけですが、ネタに困るかと思いつゝも
50回になろうとしております。意外と尽きないものです。
むしろ彼方此方調べると、日本人にとってのうつわ概念は、歳時記だったり、
四季が存在することだったり、茶文化だったり・・・奥深いものがあります。
つまるところ、あぁ日本人はうつわが好きな民族なのだなと思うのです。
木俣薫 「絵唐津木の葉皿」
葉っぱを模したうつわというのがございます。
焼締、織部、金襴手。。と、意匠は違うものの日本全国の窯場で焼成しております。
しかも古より絶えず作り続けられています。
沖縄読谷村 陶眞窯 相馬正和親方「掛分け木の葉皿」
ろくろを使わずとも、粘土を叩いて広げたら葉っぱのカタチになって、
火で焼いてみたら焼き締まって、うつわになった。
そんな偶然もあるかもしれませんが。
何故に擬葉風(笑)にしたがるのかな?と書いているうちに思いまして。
沖縄や八重山諸島の方では、「菜っ葉弁当」という月桃の葉の上にご飯やおかずを
載せて、葉っぱをまさにうつわとして提供する店があったり、「むーちー」と
よばれる餅を月桃の葉で包んで蒸す郷土料理もあります。南国ですから、サイズの
適した大きな葉っぱは無尽蔵に手に入ります。
いや、本州もしかり。葉っぱの食文化は地域によって多彩です。
端午の節句は柏餅、粽のシーズンですが、場所によっては柏餅を見たことがなく、
「サンキライ(山帰来)餅」という別名サルトリイバラの葉っぱを巻いた餅の
地方もあります。
調べているうちに、東海地方の地方色豊かなスーパーの掘り出し物を紹介する
コラムに当たりました。
この地域では、サンキライ餅を「おさすり」とよぶらしいです。
地元のお菓子屋さんは「何故そんな名称がついたかわからないが、粽は男の子、
おさすりは女の子のことらしい」そう答えておられます。
想像するに、性的象徴の隠喩だと思われます。
「いろんな研究があるものだ」と文中で筆者が書いておられた「兵庫県立人と
自然の博物館」の自然・環境再生研究部が発表した論文「かしわもちとちまきを
包む植物に関する植物学的研究」を私も読みました。里山で簡単に手に入る
植物の葉を利用することで、郷土菓子は伝わってきたようです。
かんたんに採取できない都や都会では、近郊の山から取り寄せた柏の葉の柏餅が
主流となるようです。
注目すべきは、636年隋書のなかに倭国の人が槲(カシワ)の葉を食器代わりに
使用しているとの記述があり、年代は下がって古事記や万葉集などでも、仏会、
節会などの饗宴で食器として使用される様が登場する。そんな件です。
(ただし、カシワではなく現在のコナラだった可能性もあるそうですが)
うつわを使って料理を愉しむのは、人間サマの醍醐味。
面白いですね。
北大路魯山人は随筆「料理と食器」のなかで書いています。
「いうまでもなく、食器なくして料理は成立しない。
太古は食べ物を柏の葉に載せて食ったということであるが、
すでに柏の葉に載せたということが
食器の必要を物語っている。」
魯山人先生、歯に衣着せぬ物言いで敵も多い方ですが、
仰ることだけのことアリ。大変な勉強家でおられます。
読んでいるうちに、パズルがパチリ、パチリと嵌っていくような感覚、
繋がるととっても楽しい。
木俣薫「無地唐津5.5寸浅鉢」
自然に宿る美を写し取ろうとして切磋琢磨してきたうつわの歴史。
葉っぱの造形を模した表現が脈々と続いているのも、太古の記憶がそうさせる
のかもしれません。
水を打った瓦のような木俣さんのうつわの上に載るのは、鹿児島県の郷土菓子
「けせん団子」けせんは鹿児島県の言葉で「肉桂(ニッキ)シナモン」のこと。
ニッキの葉で包んで蒸した自然薯と黒糖、よもぎ入りの餅菓子。
香りといい、もちもち感といい、かなり個性的なお菓子です。
京都人もたいがいニッキ好きですが、葉っぱを使う食べ物はないですね。
お馴染みの「かるかん」天然の自然薯と、石臼で挽いたかるかん粉で作られた
棹かるかん。餡子の入ったかるかん饅頭よりも、口のなかに自然薯の甘みと
香りが広がる良質な素材ならでは贅沢なお菓子。
漆黒の小皿は鹿児島県「苗代川焼」当代鮫島佐太郎窯の貴重な代物。
最後のお作かも。と、目利きの方からお土産に頂戴しました。
やはり地のものは地に合う。しっくり馴染みます。
去年の天候不良により、自然薯の収穫が不足して品薄なのだそうです。
すべて手仕事、天然ものにこだわる店としては厳しいですね。
只今、高島屋京都店の九州展催事で出店されているところ、求めて頂きました。
皆さま、格別のお引き立て有難うございます。
私がお役に立てますかどうか、継ぐこと、伝えることを
日々切々に。
*参考資料*
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