日本の古代織物

弊店のお客さまに、全国の民俗史を自分の足で確かめながら研究されている方がいらっしゃいます。先日、石垣島の日本最古の楽団「白百合倶楽部」を教えてくださったSさんです。数少ない、本当の民藝を受け継いでおられる作り手の元へ、これまでに多くの学生さんや、関心を抱く職人志望の方や研究者を導いてこられたそうです。驚くなかれ、これは本業にあらず。フィールドワークとして長年続けてらっしゃる。琵琶湖の湖畔に家を借り、葦などの水辺の植物を育てて、子供たちに昔ながらの方法で作る身の回りの道具作りを教えたりなさっています。
上のパンフレットは「民族文化映像研究所」(代表者 故姫田忠義氏は、1961年に対馬での記録作業に始まり、南九州やアイヌ民族など全国を巡り1976年民映研設立)によって撮り続けてこられた全国の記録映画のフィルム上映会のお知らせ。近代化が進み、もう失われてしまった過疎地の手仕事の記録などを映像で紹介なさっています。Sさんは姫田氏の想いを受け継いで、協力者を募りながら、上映会ができる場所を探してらっしゃいます。
今回は白川郷の水辺の草を使う用の美と、千葉県君津市泉の竹屋の仕事の映画。私も拝見したいのですが、30日(土)お昼間というのはむつかしい条件です。京都新聞社も後援されているので、またどこかで繋がるかもしれません。
で、一昨日繋がったのです。河井寛次郎記念館を訪ねてご来店になったお客さまは、京都新聞社の記者をされているとか。現在の清水焼の登窯事情のおはなしをしているうち、今は市内に引っ越ししてきたが、以前は赴任先が京都府丹後の近く伊根町だったので、いくつか丹後の手仕事を取材したことがあります。と。「丹後へ藤布の製作を何度か見学に行きました」
今年から始まった京都民報社の新聞連載記事は「京都・生活衣の歴史 織物物語」ちょうど丹後藤織り保存会会長のおはなしが載ってました。
「藤織りは、山に自生する藤蔓の皮を剥いで、糸を作り、これを材料として織り上げた織物です。古くは弥生時代の遺跡からこの藤の織物に類する出土例があります。〜〜この藤織りは、北海道(アットゥシ織り)や沖縄(芭蕉布)を除く、全国各地で織られていました。江戸時代の中ごろ、一般に木綿が普及し始めると、それまでの木の皮や草の皮の繊維で織った布から肌触りがよく、保温性に優れた木綿にとって変わっていきました。〜〜」(掲載記事より)
スレや熱に強い特性を生かして、ヤマギ(仕事着)スマブクロ(米袋)、畳のヘリなどに用いられた生活日常的な藤織り。しかし昭和40年ごろには京都の織物問屋へ、帯や茶室の座布団などに仕立てられて高級品に変わっていったようです。
この日の午後、お金をお支払い頂く際、素敵な自然の繊維で織られたコインケースを持ってらっしゃったので、お客さまに「どちらの織物ですか？」と伺ったら「北海道のアイヌのアットゥシ織りです」と。ペンケースも見せてもらいました。長く使ってらっしゃっても、繊維の色は黒くならずに、丈夫そうで尚且つ凸凹した風合いが綺麗でした。アットゥシ織りとは、オヒョウやハルニレ、シナなどの木の皮を使ったアイヌの伝統的織物です。
お客さまのコインケースを拝見して、ふと、そういえば私のシナ布のコインケースは何処へいったかなぁ。。。ありました！5年ほど使ったコインケース。今は皮の手作りを頂いたので、そちらにチェンジしてしまいました。織りの部分は、使い始めた頃よりも少し茶色がかった気がしますが、ほぼ変わっていません。
シナ布は、科の木の中皮を糸にして織った山形県の織物です。こちらも縄文・弥生時代からの技術が伝わる繊維の原点です。木の皮剥ぎから始まり、23工程にも及ぶ手間暇がかかる織物故に、次々と産地が消えてなくなり、いまは山形県鶴岡市のわずかな村でしか作られていないそうです。
日本三大古代布の一つといわれます。
あとの二つは、芭蕉布と葛布。葛の繊維で織られた葛布は、静岡県遠州地方掛川市の特産品です。一昔前は民芸店でも葛布のテーブルセンターや掛け軸などの日常使いの商品が販売されていましたが、今では全然見かけませんね。
サイトを探していると、大井川葛布HPを見つけました。こちらの工房はFacebookもあって、メディアや雑誌にも取り上げられるような、時代のニーズに合うものを研究して、とても努力なさってますね。作り手でありながら売り手でもある、地方からの強い発信力をお持ちです。
なかなかこのように発信できないで、知られないまゝいつの間にか消えてゆく昔ながらの手仕事のほうが多いと思います。陶芸などはまだ良い方で、染色、織物、紙、竹などの編組品の分野は、全国的に存続が厳しい状況です。
大井川葛布さんのHPでは、北海道の二風谷へアイヌ文化を見学するツアーの紹介も載せられてました。本当に、日本の工芸の世界は狭いものです。上映会のSさんもアイヌ文化をずっと見つめてこられた方です。前回のカダナコーヒーで開いた「北海道手仕事のおはなし」のとき、アイヌ文化の資料について、貴重なアドバイスを頂きました。新聞記者のご主人にも「上映会のSさんと、京都民報の記者さんはお知り合いで、交流が深いですから何処かでまた繋がるかもしれませんよ」そう言いながら、お見送りしました。
関心を持つことが、出会いの一歩。一つ扉が開いたら、次々と繋がり広がって行きます。不思議ですが、自分の方へご縁が近寄ってくるみたいです。
織りと染めに関しては、2月2日から3月21日まで、京都国立近代美術館にて「志村ふくみ〜母衣への回帰〜展」が開かれます。会期中、志村さんご本人によるワークショップや講演会など企画が数多ありますので、ご興味お持ちの方ぜひご参加ください。92歳で益々お元気、素晴らしい作品を生み出すパワーはすごいですね。何事も、思い立ったが〜〜‼︎展覧会HP

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